木炭紙にインク+ガッシュ+アクリル絵具 – 970 × 645 mm

浅田 次郎「神坐す山の物語」

 例えば、夏の夜が明ける時刻に橫向きで布団の中で寢ていると、誰かが背後から入ってきて背中にくっつくのですね。あれ、妻が怖い夢でもみたのかな?と最初は思ったのですが、(当時は妻と二人暮らし)いや、こいつは妻じぁない!と勘づいた瞬間、金縛りですよ!そうしたらそいつは私の体の上をまたがるように前側へ移動するんですね。顔と顔で真近に、こんにちわ、したいんですかね 笑。その時の恐怖はたった数秒でもちびりそうでしたよ 笑。ずっずっず、とそいつは私の真上に来た時、フフッと耳元で笑ってかき消えたんです。女の声でした。まぁ、夢だよ。と言われれば夢でしょう。
例えば、頭上30メートルくらい上の夜空を切り裂くように、見た事も無い質感の銀色の物体が出現し、風圧も音も無く飛んでいっても(私以外多数の人も同時に見た)、まぁ、こんな事もあるよね。くらいで、誰でもちょっとは不可思議な体験有りますよね。
 長々と自分の話をしていますが、「神坐す山の物語」は浅田さんが体験なされたお話と叔母様方の昔語りのお話で構成されていて、ほぼ事実のお話とのことらしく、すべて怪談奇聞なんです。浅田さんは見える人なんですね。私は0感ですが、幽霊不思議話は否定も肯定もしません。大昔からある話なので、稀にあってもいいんじゃないか、くらいです。よく怖い話を創作だとか、そんな話は気のせいとかおっしゃる方がいますけど、洒落の理解できない方ですね。面白ければどちらでもいいと思います。
 最初の物語は叔父様のお話ですが、敬愛する叔父様の物語ですから、浅田さんは言葉を慎重に選んでいます。最上級の穢れのない単語(神官に相応しい言葉)を選んで使っています。叔父様のことを愛して尊敬して、その叔父様の物語を書く事で一つの階梯を乗り越えていますね。物語の制作順はわかりませんが、これで乗った?と思いました。あとは珠玉の物語が続き、いつまでも物語が続いてくれて終わりが無ければ良いのですが、七話で惜しくも終わりになります。
 文庫本の後書きのインタビューの中で、柳田國男の遠野物語に匹敵すると聞き手の方が褒めておいででしたが、遠野物語はつまんなく無いですか。私は途中で投げました。私こそ洒落のわからない人間なんでしょうか?
七話目の「天井裏の春子」の中の浅田さんの叔母様の一言がいつまでも気になります。
「満開の枝垂桜の下に立っちゃいけないよ」狐が憑くそうです(怖)