木炭紙にインク – 970 × 645 mm
村田 健司(kenji Murata)
「ドビュッシー歌曲集 雅やかな宴」
もう30年も経ちますか、友人のS氏がドビュッシーの歌曲にはまり、主にバリトンのCDを掻き集め一緒に拝聴したのですが、その当時ダントツで村田さんが素晴らしかったです。
フランス歌曲を日本人が歌う?日本人は品格が無くて権威主義なので、難解で変幻自在のドビュッシーの歌曲は歌えないでしょう。と傲岸不遜にも思っていましたが、いい意味でうっちゃられました。
村田さんの美声と完璧でいて柔軟な唱法。ピアノのピュイグ・ロジェさん(大先生らしいですが素敵なお婆様)のこんな凄い伴奏は一生に何度も出来ないだろう、とも思われる神業ピアノ。
そして、何と言ってもこのCDの特出するところは選曲と曲の配置が考え抜かれているところです。1曲目のヴェルレーヌの「ひそやかに」で心を奪われ、6曲目のボードレールの「噴水」で魂を奪われ、8曲目のトリスタン・レルミトの「恋人達の散歩道」で頂点に達し、最終曲のマラルメの「扇」で虚無に放り出されます。ここで俺はどうしたらいいんだよ。と嘆いても変幻自在にやられちゃったから、後の祭りなんですよ 笑。
私の想像ですが、村田さんのCDが出た当時、彼らフランス人(西洋人)はショックだったと思うんです。彼らの音楽を異国の東洋人が今迄の閉塞した表現から別次元へ超えてしまったのですからね。そして再認識したんですよ。「ドビュッシーの歌曲って良くね」って。
手持ちのCDを抜粋すると、村田さんの録音は1986年。村田さんと同じカミーユ・モラーヌ門下生のFrancis Dudziakさんのドビュッシー歌曲集が1992年、ソプラノのDawn Upshawさんの歌曲集が1995年、バリトンのChristopher Maltmanさんの録音が2001年、ソプラノのSandrine Piauさんの録音が2002年です。それぞれが村田さんの録音に誘発され、続けざまに録音の企画があったのではないかと。そして今でも続いているのではないかと?
暗愚な妄想はさて置き、他の方の録音も素晴らしいのですが、村田さんの録音はなんというか、未知の鉱脈を最初に探し求めた者の歓喜があり、二番手三番手は弱いんです。それと決定的に弱いのは、彼らの歌唱法は古い伝統が足かせになっていて。結局は村田さんに帰るんですね。村田さんのCDは購入当初から暫くは毎日聴きました。聴かないと1日が終わらないんですよ 笑。今回の駄文作成のため改めて聴いていますが録音もいいですね。コジマ録音さんありがとう。