木炭紙にインク+アクリル絵具 – 645 × 490 mm


ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ「シューベルト:冬の旅」

寒い冬です。真夏の激暑の時期は早く冬が来ないかなと待ち望み、冬が来て寒くなると、冬ってこんなに寒いんだ!と苦痛に嘆きますが。こんなに寒い冬になるとシューベルトの冬の旅を思い浮かべます。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウが歌うシューベルトの「冬の旅」は、あらゆる面でシンドかった十代後半にはまり込みまして、この完璧な歌唱で名曲を聴き込んでいくと何故か自殺願望がめばえ、なかなかそこから抜け出るまでに時間がかかりました。
これは私だけかなと思っていましたが、19歳のどん底の時期に私を拾い上げてくれた国立の詩人も、これを聴くと死にたくなる(笑)と言っていましたし(凍える四畳半のアパートで詩人は、一曲目の「おやすみ」のさわりをタバコでつぶれた声で歌ってくれました笑)、それにかつて愛した女(ひと)も同じく死にたくなるって言っているんですよ(笑)

その死にたくなる歌曲集「冬の旅」の中で、特に好きな曲は4曲目の「かじかみ」かな。


ヴィルヘルム・ミュラー 詩  西野茂雄 訳

私はむなしく雪の中に
あのひとの足跡をさがし求める。
あのひとが私の腕に抱かれて
さまよい歩いたそのかみの緑の野で。

私は大地に口づけしよう、
なつかしい地面が現れるまで、
私の熱い涙で
雪と氷を溶かしつくそう。

花はどこにある?
緑の草はどこに?
花は朽ち果て、
芝生も枯れている_____

思い出のよすがは
もはやここには残らないのだろうか?
私の苦しみが沈黙してしまえば、
なにがあのひとのことを語るだろう?

私の胸は彼女の姿をつつんで、
固くつめたく凍りついている。
いつかこの心が溶けることもあれば、
あのひとの面影も流れ去るのだ。


フィッシャー=ディースカウは冬の旅を13回程録音したそうですが、やはり私が幾度も聴いた1962年のジェラルド・ムーアがピアノを弾いた6度目の録音か、1965年のイェルク・デムスのピアノの7度目の録音あたりが他を寄せ付けぬ完璧さで凄みがありますね。